交通事故がもたらす障害のうち、半数を占めると言われるのがむち打ち症です。その割には正確な認識がなされておらず、「治らない」、「保険が使えない」、「後遺障害として認定されない」といった誤った概念が流通しています。さらに、「むち打ち症」が正式な傷病名ではないことも、知っている人は少ないかもしれません。
「むち打ち症」とは一般的な総称で、正式には「頸椎捻挫」、「バレー・ルー症候群」、「神経損傷」、「脊髄損傷」、「脳髄液減少症」といった名称で診断を受けることになります。「むち打ち症」と呼ばれる症状のうち一番多いのは、70~80%を占める「頸椎捻挫」です。首の骨である頸椎の周り筋肉や靭帯、また軟部組織の破損により、首周辺の痛みや筋肉の凝り、上肢のだるさや痺れをもたらします。
「バレー・ルー症候群」は、交通事故の衝撃で神経が傷つけられることによって発症します。後部交感神経は首の骨に沿って走っており、ここが損傷すると脳や脊髄の血流が低下し、自律神経のバランスが崩れます。頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気のほかに、目のかすみ、流涙、動悸、発汗なども見られるものの、診断と治療は難しいとされています。
「神経損傷」は、脊髄から出る神経の根元である神経根が、引き伸ばされたり圧迫されたりすることによって、さまざまな症状を引き起こすものです。症状は、首の痛み、腕の痛みや痺れ、顔面の痛み、後頭部の痛み、そして倦怠感などがあります。ヘルニアの原因になることもあり、くしゃみをして首を曲げただけでも症状が強まることがあります。
「脊髄損傷」は、脊椎の中の脊髄腔を通る、脳から連続する中枢神経である脊髄の損傷です。身体麻痺、知覚障害、歩行障害をもたらし、後遺障害として残ってしまう可能性の高い、むち打ち症の中で最も深刻なケースです。
「脳髄液減少症」は、事故の衝撃により脊髄内の髄液圧が上昇することによって、硬膜が破損して髄液が漏れ出ることによって症状が現れます。頭痛は天候によって左右されたり、イライラや不眠、全身の痛み、聴力・視力・味覚の傷害など多彩な症状があることから、診断が非常に難しいと言われます。判明にはMRIの診断を必要とし、交通事故との因果関係を証明するには、専門医の診断が不可欠と言えます。